1 プロローグ 戻れない

98年3月10日    出産4日目産科病室にて

今、売店でノートとペン一式を購入してきた。
この3日間、頭の中で色々な思いが交差してどうしようもなく、辛かった。他のお母さんを見てると、廊下で楽し気な談話。
「オッパイのハリ」について笑って話してる。私は、会話の側を壁づたいに歩く。「誰も声を掛けないで!私を見ないで!!」と思いながら、ゆっくりと会話に耳をそばだてて、そして、人目を避けるように歩く、足早に歩く。

昨日、「NICUのミルクの時間に合わせて面会に行く」と、前の晩からパパと約束していた。

「嫌だったら、いいんやぞ。ゆっくりでいい」

パパは、何度も何度もそう言っていた。でも、生まれてからの対面は出産直後とお母さんを連れて会わせただけのほんの2回、合計をしても5分も会ってない。

ホントは、会いたくないの。でも、私はお母さんなんだから。。。

でも、あの顔思い出すと、気味が悪い。人間じゃない。私の子どもじゃない。生まなきゃ良かった。流産にしておけば、こんな気持ちにならなかった。死産にすれば、まだ、間に合っていた??
いや、いや、いや、いや、いや、いや。。。。
もう逃げたい。お母さんの前では強がっていたけど、結局は私も同じ。抱いていても本当の気持ちは、怖かった。

「デモ、ワタシハ、アノコノ、オカアサン」
否定したい気持ちと認めざるを得ない現実。
「もう、戻れない」